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第206話

弥生:「そんなことないわ」

「それなら?」

「私がおごることになったじゃない」弥生は顎で彼の携帯の方を示した。「追加する必要なんてないよ。支払いコードを見せてくれればいいの」

声が落ちた途端、弥生が手を伸ばすと、弘次の指で弾かれた。「前回も支払ってくれたし、今回もまた支払わせるわけにはいかないでしょう?面目潰れるわよ」

弥生は軽く眉をひそめた。

「本当に気に食わないなら、黒田グループに来て」

「.......話があまりにも飛躍しすぎてない?」

「飛躍?」弘次は眉を顰めて、考えているように見えた。「でも弥生の言うように、僕は確かに引き抜きたいんだ」

「一食で私を買収するなんて、本当に甘いわね」

そう言って、弥生は携帯をしまって、送金をやめた。

彼が支払ってもいい。黒田グループの後継者なら、その程度のお金は大したことないだろう。

そして自分のお金は、これからの子供のために残しておこう。

「確かに、一食で買収するには足りないね。これからはもっと頻繁に偶然に出会う必要があるな」

弥生は気づいたが、以前よりも弘次は面白くなっているようだ。

昔の弘次は、言葉を発するたびに人を怒らせるだけだったが、今は昔と比べてまるで別人のようだ。

どうやらここ数年、海外で彼はかなり成長したらしい。

数分後、弘次は彼女を会社に送る提案をした。

弥生は即座に断った。

「いいえ、会社までは近い。タクシーを呼べばすぐに着くから」

弘次は少し驚いたが、ただ頷いた。「わかった」

二人は一緒にレストランを出た。

外に出ると、弥生は廊下で出会った痩せた男、古奈の彼氏を見かけた。

彼らはまだ去っていないのだろうか?

ちらっと見ると、弥生は呆れた。

背の高い男が抱いた女は古奈ではなく、成熟した美の備えた大人女性だ。

話す時、口調は非常に強いものだった。

「あんた、まだ解決していないの?あの女はここまでついてきたのよ。本当に忠実だわ。偉いわね」

「田中さん、彼女の気が急に変わるとは思わなかったんだ。前にちゃんと約束したのに、彼女は突然中絶したくないって言ったんだ、全然訳わかんない」

「訳わかんない?あの女を抱きしめる時、こんなこと考えた?」

「田中さん、怒らないで、彼女が僕を誘惑したの、僕はだまされた
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